母音で愛を語りましょう

私をとりまく、ぐるりのこと。

2022-01-01から1年間の記事一覧

『小僧の神様/城の崎にて』志賀直哉

『佐々木の場合』 p.21 何と云う事もなく僕は自分が今幸福な身の上だと云う気がしていた。勿論世間並な意味でだが。そして富は女として不幸な境遇に居る者として考えていた。そして僕は自分が富に交渉して行くのは幸福な者が不幸な者を救おうとしているのだ…

『一人称単数』村上春樹

p.18 それでも、もし幸運に恵まれればということだが、ときとしていくつかの言葉が僕らのそばに残る。彼らは夜更けに丘の上に登り、身体のかたちに合わせて掘った小ぶりな穴に潜り込み、気配を殺し、吹き荒れる時間の風をうまく先に送りやってしまう。そして…

『堕落論』坂口安吾

p.7 だから、昔日本に行なわれていたことが、昔行なわれていたために、日本本来のものだということは成り立たない。外国において行なわれ、日本には行なわれていなかった習慣が実は日本人にふさわしいこともあり得るのだ。模倣ではなく、発見だ。 p.21 京都…

『現代思想入門』千葉雅也

p.13 現代思想は、秩序を強化する動きへの警戒心を持ち、秩序からズレるもの、すなわち「差異」に注目する。それが今、人生の多様性を守るために必要だと思うのです。 人間は歴史的に、社会および自分自身を秩序化し、ノイズを排除して、純粋で正しいものを…

『すべてはモテるためである』二村ヒトシ

読みやすいのに、ところどころギクっとくる。 全員を幸せにできないから寂しくなってきた、みたいな話は今でも心に残る。 p.29 活字だからってすぐ丸呑みにして信用すんな、ってことは、もちろん、この本に対しても言えることです。それと「読むスピードは読…

文喫 2022.4.9

『どもる体』伊藤亜紗 p.83 もちろん、そのような力が人間のコミュニケーションにとって常に必要なわけではないし、実際には単なるノイズになることのほうがはるかに多いでしょう。けれども、言葉を操る意識を押し流してしまうほどの興奮の塊を目の前にする…

『心にとって時間とは何か』青山拓央

p.24 私は現在、認知症でなく、自分がいつの時期の自分か分からなくなることもないが、おそらくは、いま開いているページの開かれ方が若干弱い。だから、ときどき、このページを開いているものの「本当に今はこのページだったか?」と疑念をもつーーそしてし…

『左上の海』安西水丸

p.49 気分のいい日、奥津は時々病室の窓辺まで歩いて外を見た。彼の病室は四階にあり、そこからは青山の住宅地の尾根や遠くに渋谷方面のビルが見えた。陽が西に傾くと、ビルは直線的な影を抱いて輝いた。奥津はそんな影を美しいとおもった。 p.172 田仲七江…

『松本隆 言葉の教室』延江浩

p.49 人を感動させるには、まず自分の心を動かすこと。そのためには好奇心が欠かせません。 あとは、自分の心がなぜ動いたのかを問い詰める。その答えを見つけてから書く。そうすると、ああそういうことかと、人もわかってくれる。

『回転木馬のデッド・ヒート』村上春樹

p.13 自己表現が精神の解放に寄与するという考えは迷信であり、好意的に言うとしても神話である。少なくとも文章による自己表現は誰の精神をも解放しない。もしそのような目的のために自己表現を志している方がおられるとしたら、それは止めた方がいい。自己…

『ホーキング、宇宙を語る』スティーブン・W・ホーキング/林一訳

『手の倫理』伊藤亜紗

p.30 興味深いのは、こうして石や木、物の性質を知っていくことが、フレーベルにおいては、「自分自身を知ること」へと折り返されていく点です。ものの意外な性質が引き出されることと、自分の中の意外な性質が引き出されることは、フレーベルにとってセット…

『アンビエント・ドライヴァー』細野晴臣

もうさ、声が聞こえんのよ、細野さんの。 低い、良い意味でスキだらけのじっとりした喋り方が。 そして、やっぱり彼のパーソナリティというか、言葉そのものに飾り付けがなくて、かっこよく見せようとか深いこと言おうとか吃驚させてやろうとか、そういうの…

『わたしのマトカ』片桐はいり

フレンドからお借りして読んだ。 自分では買わない本に出会うって久々だけどいいよね。 その時の記憶や環境も、読書体験に入る。 その子はこの前引っ越したから、もうしばらくは会えないかもな。 〜〜〜 彼女が持っている「あっけらかんさ」はやたらまぶしく…

『欲望会議 性とポリコレの哲学』

p.6 欲望とは、肯定することです。肯定的生、肯定的性。それはしかし、逆説的に思えるかもしれませんが、何らかの「否定性」としぶとく付き合い続けることを含意しているのです。一切の否定性を退けて、ただただポジティブに生きようとするのではなく、「何…