母音で愛を語りましょう

私をとりまく、ぐるりのこと。

『妻のオンパレード』森博嗣

p.43 人間が一番楽しめるのは、可能性を持って考える時間なのではないだろうか。これが「遊ぶ」という動詞に極めて相応しい。小さな子供が遊んでいるとき、彼は野球選手にもなれるし、正義の味方にもなれる。そういう可能性を思い描いているはずだ。大人も真…

『愛の生活 | 森のメリュジーヌ』金井美恵子

p.35 その頃、彼は恋愛をしていて、わたしとFは婚約することを考えていた。あの頃のことは、懐かしさという優しい感情で思い出すのに、一番ふさわしい時期だった、などとわたしは言わない。そうむかしのことではない。だが、今とは完全に別の時間。場所は同…

『精選女性随筆集 森茉莉 吉屋信子』小池真理子 選

森茉莉 p.80 冷い乙女椿、雛の画、そうして洋燈の光、それは私の昔だった。私はしばらくの間じっと立っていた。周囲は記憶の中のように暗かった。

『イヤシノウタ』吉本ばなな

p.20 くよくよ考えたり、気取ったり、自分の良さを盛ったりしないような、そういう反射的な反応に関しても明快であれるような人生を歩みたい。 p.28 そのすばらしい笑顔を見ることができたのだから、人というものをまたほんの少し好きになることができるくら…

『体は全部知っている』吉本ばなな

『スプートニクの恋人』村上春樹

p.8 でもあえて凡庸な一般論を言わせてもらえるなら、我々の不完全な人生には、むだなことだっていくぶんは必要なのだ。もし不完全な人生からすべてのむだが消えてしまったら、それは不完全でさえなくなってしまう。 p.64 ぼくはまだ若かったから、その手の…

『映像のポエジア ー封印された時間』

p.23 発展することのない、いわば静的な緊張状態とでも言うべきもののなかで、情念は最大限の強さに達し、徐々に変化する場合よりも、いっそう明瞭に説得力を持って現れる。私がドストエフスキーを好きなのも、これを偏愛するゆえである。私により興味深いの…

『M/Tと森のフシギの物語』大江健三郎

p.26 祖母の話は面白いものの、あまりに不思議なところは、子供の聞き手を面白がらせるために部分的に作られた話ではないか、とも思ったことを覚えています。それでいてなんとも懐かしく、引きつけられるようであったのでした。このそれでいてということが、…

『身体の言い分』

再々再読くらい。 p.36 多チャンネルの人の場合は、それが深刻な矛盾にならないんですね。そういういろんなヴォイスの使い分けができる人の特徴は、メッセージのコンテつを首尾一貫させることよりも、コミュニケーシャンの回路を成り立たせることのほうが優…

『親孝行プレイ』みうらじゅん

p.20 心の問題はここでは詳述しない。しかし、そんな風に行動を起こしてみたとき、そしてその行動によって親が喜ぶ顔を見たとき、諸君の中で、心が次第に行動に追いついていくことを、私は知っている。

『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』みうらじゅん、リリー・フランキー

p.13 L:野球でも守備の時間は、自分たちは1点も取れませんからね。当たり前だけど守っている時間が長ければ長いほど、点を取られる可能性が高くなるわけじゃないですか。 p.15 L:だけど例えば、何年後かに車を買って、家を建てるって物質的な目標を立てて…

『とるにたらないものもの』江國香織

p.33 最たるものがカクテルだ。私はカクテルが好きでよくのみにいくのだけれど、カクテルの何が好きかというと、名前が好きなの。味はあんまり好きじゃない。 p.166 どの映画にも、いかにもぴったりの音楽がついていた。娼婦はたいていチャーミングだったし…

『映画の鑑賞 山崎まどか映画エッセイ集』 山崎まどか

p.8 映画を完全に手にすることなんて、きっとできないのだ。観客に残るのは、映画の記憶でしかない。ただ作品の記憶ではなく、それを見た時の自分や、見に行った場所や、映画が終わった後に見た風景を含む、その人だけの思い出だ。映画は観客の個人的なもの…

『悲しみよ こんにちは』サガン/朝吹登水子訳

p.8 私は砂の上に寝そべって、そのひとつかみを手ににぎり、指の間からやわらかい黄色のひとすじの紐のように流し落した。私はそれが時のように流れ過ぎて行くと自分に言い聞かせた。それは安易な考えだ。安易なことを考えるのは快いと自分に言い聞かせた。…

『成熟スイッチ』林真理子

しなやかだけど、したたかで、 おちゃめだけど、かくしんてき。 〜〜〜 とにかく矛盾するけど、 謙虚さには確かに自信が宿っていて、 愛嬌あるけどちょっと子憎たらしいみたいな。 読んでいて、 このバランス感覚こそが成熟なのではと、 思いつく。 軸が「素…

『考えるヒント3』小林秀雄

おそらく再再読ぐらい。特に「信じることと知ること」は度々読んでいるけど、久しぶりに読んでみた。大事なことを見失ってないか確認する。 〜〜〜 p.11 その話は正しいか正しくないか、つまり夫人が夢を見た時、たしかに夫は死んだか、それとも、夫は生きて…

『午後の曳航』三島由紀夫

p.97 他人の感情と他人の思い出のほうが、自分の存在よりもずっと重要だと感じることの、この悩ましい甘い自己放棄の裡に、竜二は一刻も早く姿を消してしまいたかった。

『7月24日通り』吉田修一

街に理想を重ねるように。 何も知らないから、想像できるように。 あるゆる人たちに、自分のイメージを重ねている。 だからこそ、逆もあるね。 あらゆる人たちのイメージを自分に重ねる。 それで飛び込めるときがある。 なかった勇気が湧いてくることがある…

『掃除婦のための手引き』ルシア・ベルリン/岸本佐知子訳

『小僧の神様/城の崎にて』志賀直哉

『佐々木の場合』 p.21 何と云う事もなく僕は自分が今幸福な身の上だと云う気がしていた。勿論世間並な意味でだが。そして富は女として不幸な境遇に居る者として考えていた。そして僕は自分が富に交渉して行くのは幸福な者が不幸な者を救おうとしているのだ…

『一人称単数』村上春樹

p.18 それでも、もし幸運に恵まれればということだが、ときとしていくつかの言葉が僕らのそばに残る。彼らは夜更けに丘の上に登り、身体のかたちに合わせて掘った小ぶりな穴に潜り込み、気配を殺し、吹き荒れる時間の風をうまく先に送りやってしまう。そして…

『堕落論』坂口安吾

p.7 だから、昔日本に行なわれていたことが、昔行なわれていたために、日本本来のものだということは成り立たない。外国において行なわれ、日本には行なわれていなかった習慣が実は日本人にふさわしいこともあり得るのだ。模倣ではなく、発見だ。 p.21 京都…

『現代思想入門』千葉雅也

p.13 現代思想は、秩序を強化する動きへの警戒心を持ち、秩序からズレるもの、すなわち「差異」に注目する。それが今、人生の多様性を守るために必要だと思うのです。 人間は歴史的に、社会および自分自身を秩序化し、ノイズを排除して、純粋で正しいものを…

『すべてはモテるためである』二村ヒトシ

読みやすいのに、ところどころギクっとくる。 全員を幸せにできないから寂しくなってきた、みたいな話は今でも心に残る。 p.29 活字だからってすぐ丸呑みにして信用すんな、ってことは、もちろん、この本に対しても言えることです。それと「読むスピードは読…

文喫 2022.4.9

『どもる体』伊藤亜紗 p.83 もちろん、そのような力が人間のコミュニケーションにとって常に必要なわけではないし、実際には単なるノイズになることのほうがはるかに多いでしょう。けれども、言葉を操る意識を押し流してしまうほどの興奮の塊を目の前にする…

『心にとって時間とは何か』青山拓央

p.24 私は現在、認知症でなく、自分がいつの時期の自分か分からなくなることもないが、おそらくは、いま開いているページの開かれ方が若干弱い。だから、ときどき、このページを開いているものの「本当に今はこのページだったか?」と疑念をもつーーそしてし…

『左上の海』安西水丸

p.49 気分のいい日、奥津は時々病室の窓辺まで歩いて外を見た。彼の病室は四階にあり、そこからは青山の住宅地の尾根や遠くに渋谷方面のビルが見えた。陽が西に傾くと、ビルは直線的な影を抱いて輝いた。奥津はそんな影を美しいとおもった。 p.172 田仲七江…

『松本隆 言葉の教室』延江浩

p.49 人を感動させるには、まず自分の心を動かすこと。そのためには好奇心が欠かせません。 あとは、自分の心がなぜ動いたのかを問い詰める。その答えを見つけてから書く。そうすると、ああそういうことかと、人もわかってくれる。

『回転木馬のデッド・ヒート』村上春樹

p.13 自己表現が精神の解放に寄与するという考えは迷信であり、好意的に言うとしても神話である。少なくとも文章による自己表現は誰の精神をも解放しない。もしそのような目的のために自己表現を志している方がおられるとしたら、それは止めた方がいい。自己…

『ホーキング、宇宙を語る』スティーブン・W・ホーキング/林一訳