p.20
くよくよ考えたり、気取ったり、自分の良さを盛ったりしないような、そういう反射的な反応に関しても明快であれるような人生を歩みたい。
p.28
そのすばらしい笑顔を見ることができたのだから、人というものをまたほんの少し好きになることができるくらいの瞳の輝きを見ることができたから、あの長電話の時間の全てが一秒もむだではなかったんだ、と私は思った。
p.42
でもそれは「さあ、今日は黄色い葉っぱを見に代々木公演に行こう」と思って意気込んでいたならば、決してわからなかった美しさだった。
流れの中にいたから、偶然見ることができたんだと思う。
美は偶然の中にあり、ぎゅっとつかむと逃げてしまうから。
p.70
いつかこの日が来るとわかっていたから、いつも切なかったんだと。
いつまでもいるよとは決して言ってくれないその人のあり方が、切なかったんだと。
うそでもいいからそう言ってくれていたら、きっとこの気持ちにはならなかっただろう。
かといって恨む気持ちも全然わいてこない。
膨大な時間の積み重ねにただ呆然とするだけだ。
みんながこんなふうに呆然とできるのだったら世界は荒野ではなく花畑なんじゃないかな、とこの呆然とした感じの中にあるあまりの豊かさにしみじみ思う。
p.152
ほんとうは無事だろうとわかっているなかでの、お別れごっこのハグはほんとうに温かかった。万が一あれがリハーサルでなかったとしても悔いがないくらい、世界はきれいだった。