母音で愛を語りましょう

私をとりまく、ぐるりのこと。

『心にとって時間とは何か』青山拓央

p.24

私は現在、認知症でなく、自分がいつの時期の自分か分からなくなることもないが、おそらくは、いま開いているページの開かれ方が若干弱い。だから、ときどき、このページを開いているものの「本当に今はこのページだったか?」と疑念をもつーーそしてしおりを挟むーーことになる。とはいえ、私はそのことであまり辛い気持ちにならない。むしろ私的にはこの疑念は「ドッキリ」番組のような明るさをもっており、急にやって来たテレビタレントに「あなたがここまで生きてきた、というのは冗談でした」と言われて「なんだ」と笑うような心象を伴っている。

 

p.43

以上、未来が過去に影響するかのような不思議な現象を見てきたが、もちろん、通常の因果の向きに沿って、過去が未来に影響を与える知覚体験も豊富にある。つまり、人間は一瞬の物理的世界をスライスするようにして知覚するのではなく、ある程度の時間的幅をもった物理的世界の情報を脳で編集したうえで知覚しており、あくまでも主観的には、過去や未来が、すなわち、すでに体験した現象やまだ体験していない現象が混ざり混むようにして「今」は体験されている。