p.8
私は砂の上に寝そべって、そのひとつかみを手ににぎり、指の間からやわらかい黄色のひとすじの紐のように流し落した。私はそれが時のように流れ過ぎて行くと自分に言い聞かせた。それは安易な考えだ。安易なことを考えるのは快いと自分に言い聞かせた。夏だもの。
p.35
「あなたは恋愛について少し単純すぎる考えを持っているわ。それは独立した感覚の連続ではないのよ」
私の恋愛はしかしみんなそうであったと思う。ある顔や、動作や、接吻したときの突然な感動……。関連のない咲き開いた瞬間……私の持っている思い出はただこうしたものだけだった。
「それは違ったものなのよ」とアンヌが言った。「そこには絶え間ない愛情、優しさ、ある人の不在を強く感じること。あなたにはまだ理解できないいろいろなこと……」
p.63
私は人が、この変化に複雑な理由を見つけることができること、また私に素晴らしいコンプレックスを課すことができることを知っている。父に対する近親姦的な愛情とか、あるいはアンヌへの不健全な情熱とか。けれども私は、本当の原因を知っている。それは暑さと、ベルグソンと、シリルと、でなければ少なくともシリルの不在だった。私は不愉快な状態の連続の中で、午後じゅうそのことについて考えた。