母音で愛を語りましょう

私をとりまく、ぐるりのこと。

『映画の鑑賞 山崎まどか映画エッセイ集』 山崎まどか

p.8

映画を完全に手にすることなんて、きっとできないのだ。観客に残るのは、映画の記憶でしかない。ただ作品の記憶ではなく、それを見た時の自分や、見に行った場所や、映画が終わった後に見た風景を含む、その人だけの思い出だ。映画は観客の個人的なものになり、誰からも奪われない。映画のパンフレットは、その記憶を喚起する装置として機能するものであって欲しい。単なる映画鑑賞を、固有の経験に変える何かであって欲しい