母音で愛を語りましょう

私をとりまく、ぐるりのこと。

『美しい日本の私』川端康成

p.86

定家の秀歌のうちには入れかねます。勿論、たとえ一人でも、この歌をすぐれていると感じる人があるなら、それを粗忽に軽んじてはなりますまい。ただ一人がその美を発見し、感得すれば、やがてそれが万人に通じることは、芸術作品にはよくあります。

 

p.88

千年、千二百年前に、今日に劣らぬ、むしろ今日よりすぐれた文学、詩や散文をわたくしたちが持っていることは、わたくしたちが今日の文学を創造するのにも鑑賞するのにも、表に立つ助け、あるいは裏にひそむ力になっていることを疑えません。日本の古典、伝統をよく知った上で、それを否定、排除しようとしてもです。それをよく知らなくて無関心に近いとしてもです。