言語感覚が好き。
そして優しい人なんだなって思う。
あなたについてのおしゃべりあれこれを
聞いていたい気持ちになる、わりとずっと。
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p.31
なるほど個人がひとつきりの体でその人生を生き、それを指して「わたし」と言いながらも全部がわたしと感じるゆえに「このわたし」なんてものは個人を超えた大きなものの、やっぱり一瞬間でしかないような気持ちにさせられます。
p.40
それだけで個性である体をもち、全員がそうである社会では自分という現象など大したことではないという一面を徹底的に思い知る。それでもその行為や時間から、どうしようもなくにじみ出てしまうものがあるかも知れない。ないかも知れない。
p.43
しかしそれはすべてこっちのムードの問題であって、なぜならもうあってしまった曲はどうあがいても変わりようがないのであって、変わってるのはいっつもこっち、この主体、この感受であるのだから、そしてそれは世界中のどのどんな楽曲に対して一律そのこっちのムードは勝利してしまうのであった。
p.86
なんていうようなことを、歩きながらに考えて、目に見えぬ風がたしかにまるっこくなってきているのを感じる。匂うような。気持ちに温度が与えられるような。これに無理やり名づけようとしたらばそれはきっと「春」になるのだと思うけれど、これらをひとりきりで感じるだけでいいのなら、きっと春という言葉もなかっただろうな。言葉には決してできないこの感じのすべてを他者と分かち合いたいという、夢とあきらめが同時にあるような切実からいつだって何かが生まれて、生き延び、それで呼吸をくりかえす。